ジョン・ウィリー  2004/10/26

 ジョン・ウィリー(John Willie)は1897年リバプール生まれとも、1902年シンガポール生まれとも言われる謎の多い英国人で、ボンデージ・アートを語る上で欠かすことのできない人です。
 渡米後、女性モデルをロープで縛った多数の写真やイラストレーション、コミック等を残しています。

 晩年は不遇な生活を送ったらしいのですが、死後、多数の画家や写真家、デザイナーに与えた影響の大きさを考えると、古今東西のポルノ画家の中でも特筆すべき存在と言えるでしょう。

「スイート・グエンドリンの冒険」

 ウィリーが1930年代頃から構想を持ち、その後'40年代後半から'50年代にかけて徐々に書かれたシリーズもののコミックが「スイート・グエンドリンの冒険」です。

 愛らしいヒロインのグエンドリンが、悪人サー・ディスティック・ダーシーによって毎回誘拐され、柱に縛らりつけられたり、奇妙な拘束具によって身体の自由を奪われたりと、酷い目に会うのですが、女秘密諜報員U-89によって毎回救出され、間抜けなダーシー卿はこらしめられる・・・という単純で他愛の無いお話しです。
 根底に流れるのはM女性への偏愛であり、淫靡でありながら明るく楽天的なトーンが全体を覆っています。
 過去に「エマニュエル夫人」のジュスト・ジャカン監督によって映画化もされていますが、この映画はちょっと残念な出来でした。

「縄抜けの名人」

「スイート・グエンドリンの冒険」の中の一篇です。
 いつもダーシー卿に捕まっては縛られてしまうグエンドリンに、女諜報員U-89が「縄抜けの訓練」を施します。
 ボブの黒髪で男性的なU-89によって、色々な形に縛られて降参してしまう巻き髪ブロンドのグエンドリン。
 性的なプレイでは無いのですが、二人の行為はレズSM的な匂いが濃厚に漂います。「これはまじめな訓練なのよ」という設定そのものが、かえってすごく卑猥で、性器はおろか乳首すら露出していないにもかかわらず、へたな性交場面よりよほどHです。

「スイート・グエンドリンの冒険」は、フェミニズムの嵐が吹き荒れた70〜80年代には、アメリカではどこも出版を尻込みし事実上発禁のような状態になっていたようですが、フランスなどで画集の形でまとめられ、発行されていました。
 私が所有しているのもフランス語版で、セリフの内容を理解することができたのは日本の各SM専門誌による紹介記事等によるものです。

「PONY〜仔馬になった娘〜」

 1946年にジョン・ウィリー監修で発刊された幻の雑誌「BIZARRE(ビザール)」に掲載された短編小説です。
 ジョン・ウィリーによる四枚の挿絵がつけられています。
 私が目にすることが出来たのは、もちろんオリジナル版ではなく、「SMスナイパー」誌別冊に再掲された日本語翻訳版で、以前から挿絵だけは知っていたその小説の内容をそこではじめて知ることができました。
 ひとりの美しく勝気な娘が、彼女とは不釣合いな風貌の金持ちの男によって、馬の調教さながら手なずけられ、従順な妻に変えられていく、というお話です。

 騎馬民族の英国人が描く、女の身体に合わせて特別に作られた馬具のような拘束具、口枷、そして乗馬鞭による調教は、日本人の絵描きには超えられない何かがある気がします。

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