女泥棒とキャットスーツ

 前回の『あの胸にもういちど』でマリアンヌ・フェイスフルが演じたレベッカは、一時期「峰不二子のモデル」と言われていましたが、原作の漫画が描かれた年(1967年)等から現在ではその事は否定されているようです。
 確かにこの二人に共通しているのは「ライダースーツを着てオートバイに乗る女」というヴィジュアルのみで、キャラクターは正反対と言ってもいいほど異なります。

 その他に峰不二子のモデルとしてよく挙げられるのは、1965年のイタリア映画『黄金の七人』("Sette uomini d'oro")に登場するジョルジアというヒロインです。色気を武器にして男を手玉に取り利用する悪女ぶりも共通していますし、ビジュアル的にも類似点があります。

 ロッサナ・ポデスタが演じたジョルジアは「キャットスーツを着た女泥棒(または女スパイ)」という映画における一つのアイコンを定着させたヒロインと言えるでしょう。峰不二子のライダースーツもその類型の一つと言えるかもしれません。

 第一作の『黄金の七人』で彼女が着ていたのは柄物の全身タイツで、まだアイコンとして完成される前段階といったところでしょうか。
 ジョルジアが黒いキャットスーツ姿で現れるのは第二作の『続・黄金の七人/レインボー作戦』(1966年)で、この映画は泥棒の腕を買われたジョルジアと7人の男達が某国の諜報機関に雇われて要人の誘拐に駆り出されるというストーリーで、スパイ映画の色彩が濃くなっています。  泥棒にせよスパイにせよ映画の中で「潜入して何かを盗み出す」女達は、これ以降たびたびキャットスーツ姿で画面に登場する事になります。

 彼女たちが着るキャットスーツは、やれ「動きやすい」だの「夜陰に紛れる」だのという理由をどれだけつけられようと、色濃く漂う「ボンデージ」の香りを隠しようもありません。
 そもそも彼女達が泥棒やスパイである事も、潜在的に「潜入に失敗し拘束されるリスク」を抱えている事を強く感じさせます。彼女達が放つエロティシズムの正体は、単に身体のラインがはっきり分かるという外見だけではなく、明らかにボンデージに関係しています。

 実際、AV等まで含めると、これまでに一体どれだけの女泥棒や女スパイ達がキャットスーツ姿で潜入を試み、失敗して捕らえられ、拘束されてきたことでしょう。
 本来ならば捕縛する側が彼女達に無理やり着せるべく用意していてもおかしくないキャットスーツを、彼女達自ら進んで着て来るのですから、用意が良いにも程があります。もはや拘束される事をあらかじめ想定しているとしか考えられません。

 そう考えると、男を手玉に取り利用する、一見サディスティックな悪女に見える峰不二子が、稀代のマゾヒストであるレベッカと関連付けられていたのも、案外間違いではなかったような気もしてきます。

(2014/09/12)

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