「あの胸にもういちど」
前回書いた『クラッシュ』について考えるとき、いつも思い出す一本の映画があります。それがこの1968年の英仏合作映画『あの胸にもういちど』("The Girl On A Motorcycle"/"La Motocyclette")です。
なぜか私の中ではこの二本の映画はすっかり関連づけられてしまっていて、一方を思い出すともう一方を連想する、そんな関係にあります。
すでに多くの人達によって散々語られてきた映画なので、今更とも思いましたが、書くとしたら『クラッシュ』に絡ませられる今しかないかなと思い、書いておくことにします。
簡単に言いますと、まじめな教師と結婚したばかりのヒロインが、以前から不倫関係にある大学教授から送られたオートバイに乗って彼の元へ向かう、というだけの話です。
ヒロインのレベッカは結婚前からすでにこの教授によって様々な性的快楽を教え込まれていて、旅の途中でその過去の経験を回想していく、という構成になっています。
今観るとさすがに古さを感じるし、また欠点もある映画で、レベッカの独白が続く場面等は少々退屈でもあります。
しかし、この映画の価値は、マリアンヌ・フェイスフル演じるレベッカがライダースーツを着てオートバイで疾走する姿そのものにあり、それだけで存在意義があると強く感じます。
マンディアルグの原作小説("La Motocyclette"/邦題『オートバイ』)では、レベッカが革のライダースーツを着る場面は2ページに渡って執拗に細かく描写されており、彼女の行為が「ボンデージ」である事を濃厚に匂わせています。そしてその匂いはこの映画にもしっかり受け継がれています。
不倫相手の教授とレベッカとは「支配と服従」の関係にあり、教授はそれを踏まえたうえで彼女にオートバイを贈り、彼女が夫を裏切って自分の元へ来るよう仕向けます。これは彼女の結婚生活を破壊し人生そのものを奪い去ろうとする強烈なサディズムであり、その道具であるオートバイはヒロインを縛りつけ支配する為の「拘束具」の意味を帯びています。
裸体を革のライダースーツで覆われオートバイという拘束具に囚われたレベッカは、その拘束がもたらす愉悦の中で、破滅に向かってひた走っていきます。
私にとってこの映画と対になっているもうひとつの映画『クラッシュ』には、ギプスともサポーターともつかない奇妙な器具で下半身を支えられ、腰にコルセットを嵌めた痛ましくもエロティックなガブリエルという女が登場します。彼女の太腿には凄まじい傷跡が刻まれていますが、その経緯も含め彼女の過去については最後までほとんど何も語られません。かえってそのせいか、ロザンナ・アークエットが演じたこのガブリエルには『クラッシュ』の影のヒロインとさえ呼べるような異様な存在感が漂っています。
そして私には、このガブリエルが、レベッカと同じような壮絶な出来事を経験し、そこから生き延びた「もう一人のレベッカ」のように思えてならないのです。
(2014/08/31)
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